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教頭の職責

教頭の職責

 校内での昇格人事によって就任することの多い教頭職については、新たにこの職に就いたとき、立場の転換という観点から戸惑いを感じる方が多いようです。実はその戸惑いこそが教頭先生が超えなければならない最初の、そして最大の課題であるといえます。

 一般に学校の教員に関する職掌関係は、フラットであることが大きな特徴です。一人の教員は、中学校、高等学校の場合、最低限、学年、教科に属し、さらにこれに校務分掌がいくつかつくことが普通でしょう。人によってはクラブ顧問を委嘱される場合もあり、3つ以上の職掌関係の中で適宜仕事をしていくことになります。この点が、一従業員が、縦の系列にしっかりと位置づけられている多くの一般企業との最大の違いです。教員のこうした特徴は、企業組織論では「マトリックス型組織」と呼ばれますが、同様の組織形態は、大学教員や病院の医師など、専門職が複数勤務する職場によく見られます。つまり、学校の教員もこうした専門職性を帯びた仕事であるということになります。

 ところでマトリックス型組織では、公式のセクションが果たす役割が比較的小さいため、任意の教員同士の間にある垣根は低いといえます。互いは各々の年齢的な差異に注意を払うくらいで、多くの場合、フランクな関係を築くことが可能です。たとえ職務上「主任」とか「部長」といった肩書きがついていても、一人の教員についての職掌関係が複数併存していますから、絶対的な意味を持たず、カイシャ組織(ピラミッド組織)のような上意下達にはなじみません。多くの学校で、「主任」が、隣組の当番よろしく持ち回り制になっているほどです。もちろんこの点は程度問題で、重要な分掌の長には適材適所、それに相応しい人物を当てている学校も多くありますが。ただ、全体としては、こうした教員同士の関係性が、組織全体を「フラット」にしているといえます。

 しかし、この関係も欠点があります。ひとつは、例えば若い先生が未経験の事態に直面したとき、自ら求めていかないと有効なアドバイスを受けにくいという点です。一人一人が「専門職」ですので、この点は意識のある先輩がそばにいないと、たとえ困っているなと感じられても、外からの支援は遠慮によって与えられないことが多くあります。もう一つの欠点は、学校全体の方向性転換が教員内部から自発的に発生しにくいことです。中には生徒減などの学校の危機に敏感に反応して、「こうあるべきだ」という自立した考えから、仕事のあり方を変えようとする先生もでてはくるでしょうが、全体的な支持を得るには時間がかかり、時宜を外してしまうことがしばしばです。

 教頭先生の役割のたいせつさはここにあります。教頭になるということは、実は、このマトリックス構造から飛び出すことを意味します。最近までこのフラットな集団に属していたわけですから、転換は難しいでしょうが、それでもここは気持ちを切り替えて臨む必要があります。経営的視点、学校長の示す方向性をきちんとフラットな集団に伝え、個々の先生の仕事のあり方についても適切にアサインするということが期待されます。教員集団の中に生まれたよい動きをクローズアップして、支持を与えると言うことも大事な仕事です。昨日までの仲間ですから、先生方の性格もよくご存じのはずです。それを「学校経営」という立場で使用して頂きたいと思います。間違っても、個々の先生に遠慮して伝えるべきことを伝えないということがないようにしなければなりません。

 おそらく教頭先生は、一般教員時代にフラット集団の中でも光るものがあったからこそ抜擢されたのではないでしょうか。ただし、ほんとうに有能な教頭先生は、確実に昨日までの仲間からは陰口をたたかれるものです。私からみるとそれは教頭として発想と立場の「転換」を成し遂げられたからこそだと思います。むしろこれは教頭としての勲章だくらいに考えたほうがよいのではないでしょうか。

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